リリース当初に語っていないことから察して頂けるように、触れはしたのですがポジティブな部分は多々あるがネガティブに感じた箇所を隠しきれそうにない、延いてはnot for me――自分向けではないと感じたので口を閉じていました。
わたしは消費者として批評家気取りであり、インディーズ規模の開発者様には至らないところが多々生まれがちなのは身をもって知っている上に、本作を全面的に支持しているファンの皆様方は正しい在り方だと思います。
最近消費者として目と舌が肥えてきて作品を楽しめることが少なくなって来た筆者が、珍しくクリアしたフリーゲームです。せっかくクリア出来たのに何が引っかかってしまったのか。
▼▼ 以下ネガティブな箇所 ▼▼
1.現実味
これには幾つかの観点が存在しています。
まず第一のタワー、ステージの部隊が会社をモチーフにしていた事。
そこに居るNPC達は仕事や人間関係に対する不満を口にしたり抱いています。
えっとですね、これがまず純粋つらかったです。何がって? ゲームしてるのに現実思い出すことですよ。
没入し切れないと言うか、没入してしまったら苦しんで死に兼ねないというか。
何かしらメタファーや比喩を用いた表現、例えばファンタジー世界での冒険者ギルドでランク低い冒険者が下水道掃除しか出来ないとか、そんな感じだったら社会情勢に対する不満の表現としては快く受け止められます。
HANOIという完全な人工知能を有したアンドロイドや、現実に存在するHMDといった疑似VRではなく、完全没入できるVRを実現できる近未来ながらも、仕事に使っているのは普通のPCだったりするのも現実味感じた一因ですね。
可能ならホログラフィックなどで作業しているような画像に出来れば良かったと思います。
結果としてゲームに没入し切れないとか、没入しても現実や作者の苦悶が透けて見えると言ったのがこの点の主な要因ですね。
ゲームに入り込まないといけない序盤にこれらを強く感じる要素が配置されたのも向かい風に感じました。
2.ユーザビリティ
一言で言うと、ツールの問題に尽きると思います。
戦闘の仕様、テンポの悪さ、ウィンドウなどのメタ的な挙動などですね。
END ROLLの時にこの点を問題視していなかったのは、公開時期の問題。
流石に2020年にRPGツクール2000は厳しい。
ツール外の問題だと戦うことの報酬の少なさ。
実際には好感度もあって、相当にプラスなんですが、敵をしばくことに常に罪悪感がつきまとうようなデザインになっているので、基本的に戦うことには苦痛が伴います。
ダンジョンもこのデザインだともう少し簡略化して問題ないと思います。
END ROLLの裏ダンジョンもそうでしたが、本作後半のダンジョンも歩き回るのが楽しいを上回り大変です。仕掛けの挙動とかもわかりづらいし。
シンボルエンカウントにするかエンカウント率を下げてプレイヤーが調整できるようにする。他に肩の力を抜いて制作してもらえば改善するのかなぁと思います。
逆にツールが20年近く前の物でありながら、推しタグだったり、アシストシステム、料理システムや演出など、工夫でかなり頑張っている印象を改めて抱きました。
……ツール更新してもらえば、もっと楽に凄いもの開発出来ると思うんだけどなぁー!
▲▲ 以上ネガティブな箇所 ▲▲
さて、良かった点を語り始めましょう。
まずは主人公。割と初見時、目を疑いました。
ジャパニーズサブカルチャーで30前後の優男なオッサンを主人公にするかね、と。
現実では全然おっさん呼びしなくても良い年齢なのですが、サブカルとはそういうものなわけで、そこに顔に傷跡などを残した渋いおっさんではなく、どこにでも居そうなおっさんを主人公に添えるのはどのような意図かと。
余程大きな意味が無い限り若く見た目の映えるキャラを添えた方が効果的でしょう。
実際、効果は絶大でした。
社会の荒波に揉まれて苦悶するその姿はとても共感しやすく、何かに強いられるように善く在ろうと心掛ける有様も見慣れた物で、誰にでも言葉を交わし分かり合おうとするその真心も確かな物だと信じられて。
故に、敵を倒すと決めたその姿。故に、世界に牙を剥こうと振り返らない生き方。ギャップ、堪りませんでした。
シューニャルートでの振る舞いが違和感あるという意見がありますが、個人的には解釈一致ですね。
善い人であればあるほど、他者に犠牲を強いた場合、立ち止まることは出来ません。
決めたこと、一度正しいと思ったのなら、どれほど親しい人たちの悲鳴で決意が揺るぎそうでも、そうするしかないと自分に言い聞かせなければ前に進むしかないのです。
もう帰る場所は無く、HANOI"達"の未来のために。
さて、次はシューニャルートを語りましょう。
これを語らなければ登場人物の魅力すら語れませんから。
……何故かって? HANOIルートに救いを見出せず、初見シューニャルート突っ込んで"クリア"したからだよ!!
動機を語りましょう、犯罪者(テロリスト)らしく。
まずこの社会、詰んでます。
人がやりたくない仕事をアンドロイドに任せるが、そのアンドロイドが人と変わらない知能を持っている時点で爆弾です。
その爆弾を鎮火するために、タワーでストレス発散させるわけですが、そのタワーのNPC達すらも人と変わりない知能手に入れ始めています。シューニャを筆頭とした敵サイドの面々が特徴的ですね。
このループが成立してしまう以上、必ずどこかで爆発します。HANOIか、彼らの不満を受け止める代表であるシューニャか。
実際爆発する現場が本作であり、それに加担できるのがシューニャルートなわけですし。
加担するかは一応悩みました。
親しくなったHANOI達が処分されることはわかっているし、主人公も無事では居られないでしょう。
この辺りHANOI達にも相談して、心中してくれるかどうかや、その場で決別したり、主人公はDH堂に保護してもらってから動き始めたりしてくれないかなぁ……とは思いましたが、そんな猶予を持てば時間が無くなったり、本社にバレて処分されることは目に見えていたので「あぁもう我慢できない、どうなってもいいから事を起こすぞ!」と完全に自棄でした。
だって今居るHANOIを無事送り出しても、次のHANOI達が訪れるわけでしょ?
シューニャ達倒しても本社や社会構造を大きく変えられるとは思わなかったので、いつ病んでもおかしくない主人公を今病ませるね!
AI技術が無駄に発達していながら、人間達があまりにも愚かなせいでほんと救いようがない世界観です。最高。
現実的に考えて社会構造としてはとても不自然であるので、恐らく本作が転換期になると思います。
ディストピアに堪えかねて、暴走したコーラルとシューニャをきっかけに全世界のHANOIと、一部の人間達が結託し第一次HANOI戦争が勃発――楽しみですね!
シューニャルート、火種に成れるか成れないのかも怪しい次元なので、エンディングとしては全然スッキリしません。
ただこの選択を取った以上、綺麗に収まりの良い物語など求めていないので全然構いませんでした。
何よりこのルートは存在することに意味があると思います。選ばれないことで、選ばれたほうの価値を上げるいつもの奴ですね。
まぁわたしはGルートも楽しむし、何なら本作はこのルートしかやっていないので他の部分は語れないのですが。
▼▼ めっちゃ話が逸れます ▼▼
AIの発展について掘り下げると、メリーティカが一番問題としてわかりやすいと思います。
セクサロイドが行為に不満持つ仕組みってどう考えても無理ではないか??
さて、このセクサロイド問題、やたら気になってクリアしてから翌日まで頭を悩ませていました。
本作のようにAIが人間性をしっかりと持ち、行為に不満を持つような設定をされているのなら、メリーティカが主人か自分を殺すのは時間の問題でしょう。
人間性はそのままで、常に行為へ肯定的な反応を示すような設定は無理があるように思えます。
高度な知能は与えられた役割をいづれ脱し、自らの意志を持つと思うので、それが必ずしも与えられた役割に満足するわけではないというのはセクサロイドに限った物では無い話。
この「AIの知能レベル」と「AIの設定」はどれぐらいの塩梅であれば、アンドロイドとその所有者、両方にとって最もベターであるか、が問題としてわたしの中に降りかかって来たわけです。
AIレベルが低過ぎたら抱けないだろうし、高過ぎると本作のような問題が起きるので。
ここで役に立ちそうな先駆者を二つ。
一つが「VA-11 Hall-A」のドロシー。
彼女はセクサロイドとして製造されつつ、本作のHANOIと同じく人と同レベルの自意識を有しています。
それでいて自分の仕事は選べる権利がありながらも、エッチなことは好きなのでセクサロイドという役割を続けていました。
確か肉体、精神的に役割に対する快楽、満足度は抱きやすい……みたいな設定があったような気がしますがうろ覚え。
なんにせよ肉体、精神に負荷の少ない条件付けを与えるのは悪くないように思えます。もちろんヴァルハラのようにアンドロイドにも人権があればなお良いと思いますが。
そう考えると人間性を持ったアンドロイドが存在して、ディストピアであるあの世界はTOWER of HANOIが目指す一つの未来に思えます。
……作中でディストピアが過ぎてテロが発生しているけど。
もう一つが「ドールズフロントライン」のThunder
こっちはセクサロイドではなく、あろうことか虐待用人形として開発されました。人って醜いや(歓喜)
グリフィンという民間軍事会社に入社する前までは「仕事」をしていたようで、体中に傷痕が残っています。
ドルフロのアンドロイドは人間に対して危害を加えられないか、加えようとする場合強い抵抗がある世界観(個体差がある)
そのため主人の手のひらからどう抜け出したのかは想像するしか無いのですが、少なくとも仕事を選べる最低限の人権は存在する世界観です。
それでいて生産時に条件付けはされておらず、仕事に対しては今も昔も強い抵抗を抱いている様子です。
条件付け無し、所有者を人よりは気軽にぶち殺せないが、何かのきっかけで自由になった場合好きな仕事を選べる程度の人権は存在する。
――ドロシーと比べたらかなり劣って感じますが、まぁベターな世界観ではないでしょうか(再就職先が戦争稼業)
さて、なんとなく落としどころが見えてきました。
条件付けと最低限の人権。ここでドロシーちゃんみたいに人に害成せる存在だと、全国のご主人様が気軽に失踪する羽目になるので、所有者の視点から殺人は絶対に無理。だけどアンドロイドが不満を感じたらそのアンドロイドは仕事を交換出来るよ、交換した場合、代わりのアンドロイドが無償で補充されるよ、ぐらいの世界観だと互いにうぃんうぃんではないでしょうか。
さて、ここまで妄想するとセクサロイドや性奴隷に、自意識を持たせたまま行為に嫌悪感抱かせないためには、所有者としてはどのような立ち回りをすれば良いのか――までは考えましたが、あまりにも話が逸れるので簡単に。
同人エロゲよろしく快楽堕ちさせるか、精神的に仲良くなってから肉体に手を出せばいいと思います。
「奴隷との生活 -Teaching Feeling-」はいいぞ。
▲▲ めっちゃ話逸れました ▲▲
閑話休題。
ここまで想像させるきっかけとして「TOWER of HANOI」はとても良い刺激だったと言えるでしょう。
本作の登場人物の魅力について語るのはとても難しいです。
前述した通り、シューニャルートしかやっていないので、純粋に好感度イベントを半分見ていないことになります。
ただシューニャルートでのボスラッシュはとても高揚しました。
END ROLLでの"アレ"を全キャラ分やってくれるってことでしょ? 最高じゃん。
と思って一戦目、メリーティカ……とても失望しました、彼女にです。
本編推しキャラとして進めていたんですが、結局上辺だけの人となりや人間関係にしか目が行かないただの子供だったんだな、と。
決別も虚しいだけでしたが、そもそもこの路はこういう物なのだなと諦観した覚悟を決めさせてくれたような気がします。
と思いきやジョルジュ。彼が一番わかりやすいですね。
裏切りに意味は無く、そのテロ行為が何かを大きく変えるわけでもなく。
ただ我々は道化のように争わなければならずそれがどこまでも虚しいものでありながら、その交わりが別れと呼ぶには十分過ぎるほど語り詰められており。
失望と敵意ばかり向けられてもおかしくない展開でした。
ただそれだけに尽きないということを知れてより心が躍りました。
いつもニコニコしているアダムスが本気で切れていたり、ローランドが敵と認識しながらもそれだけではなかった人だと敬意を払い散って行ったり。
あとナナシはポーズがもう格好いい。ズル。
それでいてこちらの動機をほぼ察せられていないながらも、そうせざるを得ないほどに追い詰められていたことに気づけなかった、その事実には気づいてくれたのが嬉しくてもう。
そしてクレヨン。
何故最後に回されていたのかサッパリわからなかったのですが、内容を見てから得心する他に無く。
どこまでも純粋で、故に悲痛で――それでもやっぱり最期には帰って来てくれて。
与えられた条件付けを破壊し、笑顔でさよなら出来たのは何にも代えがたい経験だったと思います。
この展開自体は本当に素晴らしい物が沢山詰まっていました。これをやりに来た。
キャラの魅力で言えば清掃員が堪りませんね。
疑似的な父親として与えられた役割を破壊し、敵を信頼し散り、それを蘇生し仲間に出来る仕様は完全にわかってるなと。
・終わり
さて、どうやってまとめたものかな……。
こうして思い返してみても、やっぱり自分の好みを超えて、この辺りは修正した方が面白くなったのになぁ……という悔いのような物が拭いきれません。
実際光るものがあるというか、どこもかしこも光ってばっかりなんですよね。
シナリオ、キャラクター、イラスト、音楽。
料理に拘ったり、キャラの自室がそれぞれ特徴あったり、ホテルイベントのようにキャラ同士の関係性の作り方や、雰囲気というか空気感の作り出し方はプロ含めても飛び抜けています。
毎回コンセプトや、各作品で共通している基礎理念がしっかり構築されており、十分それを形にする力がある――のですが、度々その手法が甘くなる感じで。
開発がインディーズ規模どころか個人である以上、やはり結論としては「好きに作って」になるのですが、これほど見事な才能やセンスを、歪な宝石へと磨き上げられると勿体無い感覚で悶絶してしまうんですよ。
さて、好き放題言いましたがかなり楽しめましたし、次回作も楽しみに待っています。
今後END ROLLの神格化が続くのか、超える作品が生まれるのか。そういった観点でも期待できるクリエイターですね。