#空子の動き
自身の家族を復讐の仇として殺そうとしている主人公に加担し、皆殺しにしたのち次の仇へ……というタイミングで空子が裏切ります。
事実関係だけ見てしまえばこれ以上無いよりにもよってなタイミングであり、当時何故??と頭にハテナを浮かべていた気がします。
前提として空子には善悪の感覚はあるものの、怒りの感情はもう一つの人格である少女に一任している。
また怒りの欠如した主人格である空子からしてみれば、生まれながら傷を負い腐りながら生きる彼らは皆等しく楽にしてあげるべき存在である、という点がポイントでしょうか。
改めて冷静に見てみると心理描写も丁寧であり、家族を楽にした、では次は主人公を楽に……というのは酷く自然に行き着く結論でしょう。そこに抑えきれないほどの寂しさが指かける引き金を鈍らせたのと考えたのであれば尚更です。
空子に関しては最期父親が咄嗟に空子を身を挺して庇うのは感動的だと今でも思います。
死に際に愛人との憎き子である化物を殺そうと自らに刺さっていた刀で切りかかる嫁に、例え化物と認定し道具として扱っていようど行き着く先は守るべき我が子。
限界状態が人の本質を暴くという一説がありますが、その両端を良く表した素晴らしい一幕だと思います。
空子はまぁ良いとして、逆にエルは未だに理解しきれていません。
空子:協力→裏切り→エンディング
エル:協力→裏切り→協力→エンディング
という流れからか、イマイチ手のひらを返し過ぎて感情がついてこない。
主人公に鉛玉を叩き込んだ時点で道具である少女が役目を終え、誰の物でもなく一人の少女に生まれ変わる。そういう解釈なのでしょうが、もうちょっと手段は無かったのかなぁと。タイミングでもいいから。
・黒船
能力者である人間達は暴走する力であり、誰かが制御せねばならぬ導火線の点いた爆弾。
まだ絶対数が限られているため異端として魔女狩りに合い、狩る方か狩られる側に被害が出るためそれを抑えるためにスクールという管理所の設営。
自然増加する能力者は防げぬため、それを人類の終末ではなく可能性と定義し教育。また数や質をコントロールし、大勢の幸福のために人体実験や孤独に管理される瑠璃といった少数の不幸を割り切る。
ふむ、何時考えても圧倒的に正しいですね。
主人公はその摂理を認めているのか生き様を否定しようどその道理は積極的に否定していませんし、クライマックスで朔が何かを言っていた気がしますが黒船の仕方なく妥協した現実主義に、未だ挫折を知らない理想主義だけの言葉は記憶に残っていません。
ついでに言うと当人やプレイヤーしか知りませんが、復讐の連鎖というのも主人公の父親が黒船の女を奪った事から黒船"の"信頼に背いた事が全ての発端で在り、初めに裏切られておきながらもこれ以上の諍いを避けるために許すため主人公へと手を伸ばす黒船はあぁもう許容力が違いますわ。
結果論ですが主人公の家、それを最も濃く受け継いだ父親や妹の振る舞いを見る限り、社会から距離を離し緩やかに衰退していく事を選んだ老人達は当人達の幸福や強い能力者が周りへと与える不幸を考えれば間違いではないです。
#瑠璃とモブ、復讐心の行方
黒船というラスボスを主人公自ら討てる唯一のルートであり、そして諸悪の根源である妹、瑠璃が登場する朔のルート。
大部分の能力者は瑠璃の血液から生み出された人工的な存在であり、その源である瑠璃は復讐の誓いが刻まれた悲劇を自分本位で見逃し、その後黒船により厳重に封印されている間、暇を持て余し朔を介して殺戮を楽しんでいた存在であったのだ。
黒船の討った事により復讐鬼である己も死に、もはや戦う意味も大義名分も見出せなかった主人公を動かしたのは一人のモブの死――。
――という時点で、あれ?何故男だからという理由で名前も覚えられず、幼い振る舞いを見下していたモブの死で主人公が再び動けるように? と考えたユーザーは当時から多くないわけじゃなく。
・信念の否定は存在の否定ではない
例えば仲の良い友人が居て、食事の食べ方が汚いからと言ってそれだけで関係を絶つわけでも無く。
考え方、行動理念を肯定できないからと言って、存在そのものを否定する事には繋がりません。
実際理念に一理はあるが、復讐を果たすためにお前は許さないと殺戮に固執した黒船という一例があります。
ついでに逃げ道を用意するのであれば、四人の敵を討った時点で主人公は復讐者から一般人に戻っており、本質を掴ませないために演じていた掴み所の無い奇人という演技を終わっている可能性が高いです。別に他の男性陣は普通に名前覚えていますしね。
・学友に手をかけた
比重の問題です。
個人的主観ですが、主人公が復讐鬼へと成し得た悲劇の被害者は妹と他家族と大きく二つにしか分類されていません。これには父母も含まれていて、それでもなお死者の数などを踏まえても(妹>=残り)程度の比率です。
逆に愛すべき、守るべき存在も(朔>サブヒロイン>学友)と認識している可能性が高く、妹がこれの最上位に位置しようどもそれ以外を脅かそうとなれば優先度最下位であるモブが目の前で手に掛けられた時点で、妹以外の残り三つの要因が一つの要因を優先度的に上回るでしょう。
そもその要である妹は描写が少ないため憶測になりますが、純粋だと思っていた彼女、悲劇の象徴として奉られていただけに過ぎない可能性が高く、偶像でしか無かったそれが明確に裏切った今であれば復讐者である主人公を蘇らせる敵としてこれ程なくわかりやすい存在に成り得るでしょう。妹を二度殺した存在とも取れますし、単にモブの死は他の要因が重なってきっかけに利用されただけでも構いませんし。
#ところで作品の評価は?
まぁまぁ。
点数だと70前後、長所は多いが欠点を見過ごす事は出来ないと表現すれば、伝わる人には伝わるのではないかと。
戦闘の展開に一部不可解な点が物が多かったり(肝心な瑠璃の倒し方など)ヒロインと同じ建物で暮らしている割には絡みが少なかったように感じます。
ただ基本は能力者バトルを技術や知識で制していたり、複雑な人間心理をわかりやすく伝えていたりと良い箇所も十分あります。
立ち絵は無いモブから主人公までフルボイスであり、その主人公が奇天烈な人間性から次は何を成してくれるのだろうかという期待や、黒船から大義まで主人公サイドではない面々が十分活躍していたのも素晴らしかったかと。
人に勧められる類ではありますが、先んじて作られていた同スタッフの能力者『るいは智を呼ぶ』なんと5月のPS+フリープレイ対象です。主人公が女装男子、こっちの方が個人的に色々とオススメ。
#最後に
個人的に菱吾という少女がかなりいい所を抉って来る。
褐色メイドに銃器。歯に衣着せぬ毒舌っぷりに、有能さに一歩常に引いた奥ゆかしさ。
昔主人公に助けられたからと現在まで従事し、挙句当時救われていたのは少女だけでなく主人公でもあり――それでいて恋愛関係には発展せず巨乳フェチには目覚めさせている……あぁ(恍惚)……。