発信源すらわからない近くに居る人間の心を無秩序に読み取ってしまう主人公に、初めはただのクラスメイトが同じ班分けにされて徐々に事件に巻き込まれると共に絆を深めていく……そんなミステリー
肉感溢れて描かれるキャラクター達に奇抜な容姿をした人物は少なく、やたらリアリティある人間関係や設定からも一つ頭抜けた心理描写により強い現実味を与えながらも、度々ゲームである事を突きつけられ酔いそうな程に。
// 不帰 //
真っ先に辿り着いた場所がここだった。
他に優先して選ぶモノなど無かった。
ゲームの構造は理解していた。
――多分真っ先に中核に辿り着いて他のルートは面白味を喪うのだろう。
物語の性質も理解していた。
――人として間違っている選択だとわかっている、どういった結果を齎すのかさえ。
でも止まらなかった。
一切の躊躇無く選ばなかった。
一切の迷い無く選び続けた。
一切の後悔すら無く辿り着いた。
わたしは歪な二人と、その関係を愛していたのだ。
予想し尽していた展開に新鮮味など無い、告げられた想いに特別な物など感じない。
ただただ胸を満たすのは安心感。わたしはこの二人がとてもとても好きで。
あぁなるほど。今この時間はまるでわたしが――二人の子供になったのではないのかな、と。
・主人公
他者の心を勝手に言葉として受け取ってしまう主人公。
人の目を気にしながら、どれほど上手く立ち回れば不自然で無く不利益なでも無い立場を確保できるのか。
そんな彼が、初恋をした相手。
感情を押し殺し、優等生の仮面を被り――毎日毎日自殺願望を抱えて昼休み屋上へと登る。
描かれるイメージは希死念慮など生易しいものではなく、痛みと醜さに満ち溢れた死そのものの落下死体。
彼はあまりにも強く言葉として伝わる事の出来ないイメージを発する彼女に恋をする。
他の人とは違うのだと、なんて不器用な生き方をしているのだと。
誰よりも、不器用な生き方をしているそんな彼が。
彼は彼女を好きなのだ。
好きで好きで、もしイメージが現実に侵食してしまった時、自分がどんな行動をするのかわかっていないのだけれど。
飛び降りようとする彼女を止めるのか、背を押す立場なのか、それとも手を繋いで共に落ちるのか。
その全てを夢に見る。まるで彼女が望む結末や過程こそが、彼の最も望む物だと言わんばかりに。
……生と死の境界に立つ雪本さんの思いを、自分だけは理解できると思っていたのに。
それなのに、いざそのときがきたら、あんなにも取り乱して。
――雪本さんの思いを穢した。
あんなにも完成されていた、あんなにも美しい、雪本さんと死のたわむれに、無粋な横やりを入れてしまった。
(……謝らないと)
いやぁ、勝手に内心抱いていたイメージを穢してしまった事を悔いた上に、普段コミュ障であまり喋らない人間がわざわざ憧れの相手に唐突な謝罪を決めるって……相当なんだよなぁ。
この時点で二人の世界、主に主人公の羨望にですがとても惹き込まれていました。
死なないでほしい。
死に憑かれていてもいいから、生きていてほしい。
――俺の望みは、要するにそういうことなのだろう。
雪本さんの死への妄執、歪んだ不可解な思いを、俺は尊重したい。
世界で唯一、肯定できる理解者でありたい。
けれど――
……雪本さんが実際に死んでしまうのは、いやだ。
そうでありたいと願いながら、実際に願ってしまったのは即物的なもので。
初恋だから? 恋に恋している? 彼女に起きた事により時間が止まってしまったから特別に?
整理なんてできるはずも無く、機会など訪れるわけも無く。
中盤、友人に彼女を救うヒーロー像に焦がれているだけではないのかと問われます。
認めたくない、感情がそれを許さないから。否定できようもない、証明する手段など無いのだから。
結果的には多少経緯は違うものの、初めに受けたような印象に二人は落ち着いて往きます。まるで強い強制力に引き込まれるように。
一転、二転して正しく収まったのか、誤解したままなのか、実はプレイヤーにすら明言されずぼかされたままなのか。
まぁいずれでも構わないでしょう。わたしにはゆっくりと二人が沈んでいく景色が美しかったですし、シンソウノイズという作品は彼女に始まり、彼女のために繋がり、彼女のために終わった作品に変わらないのです。
極端な話、作品としての長所や短所は全て無視できるもので、また二人の世界が如何に素晴らしかったかを他者へ伝える具体的な言葉を持たず、ただ母胎に沈むような安心感がそこにあったとだけ。
・桃園end
わたし自身この流れで驚く事に別の話題も少し出していきますよ。
全ての真相を突き止め続けると自然にここへ辿り着く事になっているので、実質的なtrueエンド。
全体を通して他に複数いる主人公のようにスポットを当てられた立場に彼女は居るのでしょう。
純粋無垢で、打算とか負の感情とか一切持たないし理解も及ばなかったモモ。
ワトソン役として主人公に寄り添い、罪を知り恋を知り人の穢れを知り ――その果てでも純粋さを失う事は無かった。
それが桃園萌花というキャラの役割であり、決して揺るがぬ人間の本質であり、確かな魅力なのでしょう。
個人的には純粋な存在から穢れを知った上で、乗り越えるような役割であって欲しかったけれどまぁ野暮かなぁ。
別れを選んだ彼、迷わず落ちていく事に寄り添う事に決めた彼女。
この三者が見れただけでも、とても洗われるような気分になったので意識はそっちに持っていかれました。
・清川end
不帰エンド以外をそもそも別作品としてしか評価できないと言うなれば、このルートだけは一つ頭が抜けていました。
いや別にこの容姿が特筆して好きとか、どうせ一部以外実質バッドなんだからやるならここまで突き抜けろって理由だけでも無いです。というかルートあってびっくりした。
愛しい彼女と似通った容姿を持ちつつ、内情を知りながら罪を隠して肌を重ねて。
倒錯していて、それでも築けている……はずの奇妙な信頼関係。
失ったものは多く、大きく、ただその選択を悔いる事ができようとも誰が責める事ができようか。
砂場で見つける事の出来た小さな宝石の欠片、あるいは耳に入る声はただの願望という名のノイズだったのかも知れません。
それでも。
それでも、これは。
not bad...
・キャラクター評価
お気に入りで言えば、
雪本>>>黒月>北上>>桃園
ぐらいです。おい清川どこ行った。
風間が都合の悪いことは無視してくれて、それでいて慰めが必要な時は助けてくれるというかなりいい女な気もしますが、肝心時に居ない事が多かったり序盤特に感情的に立ち回るので都合の良い女程度。
黒月も似ている性質ではあるのですが、感情に制されるのではなく感情を制するタイプである事、知恵もまわり能力絡みで融通も効く立場や立ち回りを行う事からかなり印象が良かったです。
天然不思議ちゃんか養殖不思議ちゃんでもどっちでも個人的ツボですし、髪おろしているシーンは胸が高鳴りました。
女性陣無視して居る北上は物語の緩急にも助かりましたし、心身イケメンで安心感も十分。
ただ後述の犯人推測では、実はよく考えて動いている事などで裏がありそうだったり、サイコキネシス疑惑が組織の信憑性を疑ったせいも強く、家庭環境や内心がまるで伝わってこない、直前に実行犯の可能性があった事から逆に怪しい……と続いてかなりクロ比率は高かったです。
桃園は、うん。わたしの願望が叶えばな……。
・
推理 さて、わたしがどのぐらい
推理できたかというと、前述した通り主人公勢が有能だからか、本編ではほぼ詰まりませんでした。
ただ後半にあるクイズ共は……手ごわかった。まるでわからず(考える気もあまりなかった)ギブアップして進めていたが、最終的にはギブアップしたらバッドエンドか……そうか。
攻略サイトには辿らず、若干ズルだが逆算的にクイズ共に答えを出していったが、肝心の最終的問題だけはダメでした。解説聞いて……うん、わたしに酷く一般教養が欠けているんだなと改めて実感。
ちなみに本編中長い間追われていた核心的な謎ですが、性質上仕方ないとはいえまるで
推理パート寸前まで想像がつきませんでした。
実際
推理を始めてみるとあの情報とあの情報によりシロと除外できる……とまではわかるのですが、その判断基準の信憑性を疑ったり、背後関係が薄いから怪しいと過ぎた
推理の材料を引きずって、最終的にはこの人シロが良いというより、この人がクロっぽい雑な
推理で見事失敗を続けました。
事が事だけに感情的になるのは仕方ないと思ったのですが、結果を見てから流石に頭悪かったなと。
どれぐらい頭が悪かったかというと、六人居る犯人候補からリストアップしていた怪しい順に指摘していったら、最後に残った人物が犯人だったレベル。
確率に直すと1/720を引いたので、720倍推理能力が欠けていたのでしょう(白目)
以上思い返してみても十二割ぐらい雪本さんしか覚えていない作品でした。
滅多に過剰なほど気に入る推しキャラも作らないわたしですが、まさか心の父母を冗談半分ながら手に入れる日が来るとはとは。
……いやぁ、推敲していても今回はだいぶ頭悪いと思います。